Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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2004.11
グループワークの介入事例としての授業:
導入(準備)および開始段階としての役割ゲーム、
作業段階としてのグループディスカッションおよび発表、
終結期としてのビデオ視聴の機能的かつ軌範的な位置づけ

はじめに
 本論では、自分が運営しているグループワークの事例として、筆者が担当する科目の一つである「社会福祉援助技術各論1」の授業運営を取り上げて論じる。本授業は、約3ヶ月間に渡る1クール24回(1回90分)の流れを有するが、東京福祉大学において実施される社会福祉専攻一般通信生対象のスクーリング授業では2日間10回分の集中講義として圧縮される。参加者(学生)の年齢層はサンシャイン学園では概ね18歳から20代半ばまでだが、東京福祉大学での圧縮された形での集中講義においては20代から60代までの幅があり、多様な職業を持った人々が参加している。(注1) 以下の論述では、授業運営の事例を、その核となる部分を焦点化する形で、特に「導入(準備)および開始段階」としての役割ゲーム、作業段階としてのグループディスカッションおよび発表、終結期としてのビデオ視聴の機能的かつ軌範的な位置づけに注目して論述する。
1.導入(準備)および開始段階としての役割ゲームの実施[グループの発達段階-1]
本事例においては、クラス全体は、あらかじめ複数の(1グループ約6名ずつ全体で5グループから12グループ前後の)「ディスカッショングループ」に分かれている。したがって、後述するそれぞれの段階におけるグループの介入は、各ディスカッショングループにおけるグループワークであると同時に、クラス全体というグループレベルでのグループワークでもあるという複数性・相互的な多方向性を持ったコミュニケーション形態をとることになる。
まず、第1回目の授業の内容を具体的に述べる。最初にワーカー=教師が全体の授業の流れを説明した後で、メンバー相互間の波長合わせと緊張感の解消を意図した「導入(準備)」として、以下の簡単な役割ゲームを行った。ゲームは、以下の手順で行われる。(1).近くの者と2人1組になる。基本的には隣同士でよい。(2).2人ともごく簡単な相手への質問文を考えて相手に知られないようにノートなどに書く。例えば、「トイレはどこですか?」や「今日のご飯は何ですか?」である。(3).2人のうちで、最初に質問する役(次に質問に答える役)と最初に質問に答える役(次に質問する役)を決める。(4).最初に質問する役の人が質問する。ただし、質問はア行の音(母音)のみの発声で行う。よって、例えば「トイレはどこですか?」は、おおよそ「オイエアオオエウア?」になる。その際、学生には、単に「オイエアオオエウア?」という発声をするではなく、相手に伝えようという気持ちを込めて、またそういった自分自身の相手に対する構えを感じ取りながら質問を試みるよう促す。なお、教室という文脈を欠いた状況の特異性についてはコメントしておく。(5).答える役の人は聞き取りを試み、分かった(と思った)ら、その答を普段の発声で言う。上手く聴き取れて会話が成り立つまで問と答を数回反復し、その後役を交代して再び以上の過程を行う。その際、聴き取ろうという構えを促す。以上が第一段階であり、この段階でゲームでペアを組んだ相手同士のみならず、各ディスカッショングループ内の「凝集性」の形成がある程度なされることになる。
次に、第二段階だが、(6).それぞれの2人組の間で共有された問と答のいくつかのセットを、今度はクラス全体の人に当ててもらうゲームを行う。任意の2人組を選び、その内の1人に母音のみの発声で質問をしてもらい、その問だけを聴いて2人組以外の人に早い者勝ちでその問は何かを当ててもらう。1回目で誰も分からなければもう1度質問してもらい、これを3回まで繰り返す。(授業では1回目で当たる場合もあれば3回言っても分からない場合もあった。) もし3回質問しても誰も分からない(あるいは当たらない)場合は、今度は答える役の人に普段の発声で答えてもらいそれをヒントとする。以上の過程をいくつかの2人組みの問と答のセットで行う。
この第二段階において、クラス全体の相互的コミュニケーションが、第一段階で形成された各ディスカッショングループ内の「凝集性」を下地として促進される。こういった誰でもできる簡単なゲームスタイルでの呼びかけと応答(あるいは問いかけと聴取)の訓練は学生に大変好評であった。なお、役割ゲームにおける「メンバー間の相互作用の形態」は、上述のように各ディスカッショングループ内と各ディスカッショングループ相互間=クラス全体ともに「フリーフォーム」(注2)形態になっている。
上記役割ゲームが持つ「グループワーク導入(準備)および開始」機能の意義を次に述べる。「リーダーシップ」、「ワーカーの役割」に関しては、ワーカー=教師は、ゲームで導入される「メンバー間の相互作用の形態」としての、「個々の学生たちの相互的で対等なコミュニケーションを活性化し促進する」という援助目標を達成するためリーダーシップを取ることが求められる。また、ここで非明示的(言語的)に実践レベルで導入される「グループ軌範」は、「他者の呼びかけに応答する(あるいは他者の問いかけを聴取し応答する)」というものであり、本事例を通じて「社会福祉援助実践の根本原則」として一貫した位置づけを与えられる。すなわち、この目標の達成は、本事例における「グループの(達成)課題」でもある。この軌範は、本事例においては、終結段階を除いて言語的に明示化されることはない。この「グループの(達成)課題」の達成過程としての「軌範の発達」は、授業を通じて何度も反復訓練されるグループディスカッションの実践のなかで実際に見られた。「凝集性」は本導入段階において、すでにかなりの程度そのベースが形成された。
なお、本導入時に不可欠なことは、ワーカー=教師が、学生=グループメンバーをコントロールしようという無意識の欲望から自由になるということである。ワーカー=教師は、「相互的で対等なコミュニケーション関係において、他者の呼びかけに応答する」という軌範の発達を援助の全過程を通じて体現していかなければならない。この援助スタイルに関して、以下に具体的に述べる。例えば、学生が漠然と「言語障害のため、他人と上手く会話できないクライエントと関わっていくにはどうすればいいのか?」という問題関心を持っていたとする。このとき学生に対して、最初から「ではこのような人と関わっていくにはどうすればいいのか?」と質問したり、また直ちに「このテーマでディスカッションして下さい」と始めても、学生はなかなか具体的な「関わること」のイメージまで思い浮かばない。しかし、学生は基本的には皆「他人を援助したい、そしてそのために福祉を学びたい」という学ぶ意欲を持っている。したがって、ここで教師は、学生に対して学ぶための具体的な手がかりを与え、学生の意欲を十分に引き出す必要がある。それによって、学生たちは福祉や援助に対する新鮮なイメージを得ることになり、学ぶことの楽しさや喜びを経験するようになる。このように、一人ひとりの学生に対する相互的で対等なコミュニケーションを通じて、学生同士のそうしたコミュニケーションを促し、実現していくことが教師=ワーカーの重要な役割となる。
2.作業段階としてのグループディスカッションおよび発表[グループの発達段階-2]
 以下に、主なグループディスカッションおよび発表の例を述べる。精神療法家のレベンソンによる「4段階の意見の伝え方」に関する資料[尾崎新著 『対人援助の技法』誠信書房 1998.p124-131.参照]を素材にして、「あなたは4段階の意見の伝え方の内でどれが最もよいと考えますか。最善と考えるものから最悪と考えるものまで順番に番号を付け、その順番の理由をそれぞれの伝え方についてコメントしながら述べよ」というテーマで書かせながらグループディスカッションおよび発表を行うというものである。授業においては、学生には4段階の意見の伝え方に対する上記資料の著者によるコメントは示していない。なお、4段階の意見の伝え方は、上記資料にしたがって「援助者がクライエントから怒りを向けられたときに、どのように意見を伝えるか」を例にした以下のものである。(1)あなたはいつも怒ってばかりいる人だ。(2)あなたは怒っていますね。(3)あなたは怒りを感じているのですね。 (4)あなたが怒っているので、私も怒りがわいてきて困惑しています。である。以上のグループ介入の具体的な結果としては、20代前半の学生に(4)に批判的な意見の割合が高かった。たしかにまだ信頼関係が形成されていない場合は、基本的には(3)の受容・共感的な傾聴が必要であり、また無難であろう。だが、他者との持続を含んだ信頼関係を形成する上では、
この私が、他者のトラウマの転移(の反復)による傷を受けたという事実(「私はあなたが繰り返し私を攻撃するので怒りを感じている・悲しい」)を私と他者の両者に対して隠蔽することが、相互の応答可能性(責任)を腐食させるという認識への手がかりを得た学生の意見もあった。以下に1例を示す。学生はA:20代半ばの女性である。「[(4)が最善である理由:]利用者と援助者の関係は一方的に受け手になるとは思わない。お互いの相互作用が必要であると思う。自分の発言が相手にどんな影響を及ぼすかを分かち合う必要があるのではないか。(なぜ怒っていますかという意味を含んでいる) 」
 このようなテーマでのグループディスカッションおよび発表を全体を通じて複数回(数十回)反復することにより、グループメンバーのミュニケーション構造・メンバー間の交流形態が対等性・相互性を有したフリーフォーム性の度合いを高めていった。なお、介入の全過程を通じての基本的・記述的な留意点(リーダーシップの方法論)は、適宜学生に発問し学生のその都度の認識・コミュニケーション状態を確認するというフィードバックを行ったことである。学生への応答は、言語的・非言語的身振りや拍手などといった総合的な働きかけを行うことに心がける。また、すべてのグループディスカッションにおいて、まず各自ディスカッションシートに必ず書かせ、それをグループ内で互いに読み合わせながら討論させる。発表は全グループに行わせ、他のグループの意見を、メモを取り自分たちのグループの発表に活用させる、などである。
3.終結期としてのビデオ視聴[グループの発達段階-3]
終結期(最終回の授業)では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者との脳波によるコミュニケーションを取材したTV番組(2001.8.18.NHK)のビデオを観て、感じ考えたことを書かせた。「グループ軌範」である「他者の呼びかけに応答する」が、この段階で「責任=応答可能性
(responsibility)」という原理的な意味において明示化=言語化される。その上で、このグループ軌範が、本事例を通じて「社会福祉援助実践の根本原則」として一貫した位置づけを与えられていたことを認識として共有する。また、現実の社会福祉援助実践が「時間と他者」という不可欠な土台を持つことへの理解を促す。このことは、グループワークの終結が「喪の作業(mourning)」でもあることへの示唆を伴っている。(注3)
【注】
(注1) 具体的なメンバー構成の一例として、本年8月27日から8月28日にかけて東京福祉大学での社会福祉専攻一般通信生対象スクーリング授業の受講生27名の属性を以下に紹介する。性別は、全27名中女性が24名(88.9%)、男性が3名(11.1%)である。年齢は、10歳代5名(19%)、20歳代10名(37%)、30歳代6名(22%)、40歳代3名(11%)、50歳代3名(11%)である。勤務・雇用形態等は、授業中における学生の討論後の発表内容及び授業後に実施した試験の解答内容から判断して、複数名の社会福祉専門職者が存在し、その内かなりの割合が常勤勤務者であると推定できる。属性としては、「社会福祉領域に分類される業種に就いて現に労働している者」という比較的緩い規定が妥当であり、必ずしも社会福祉士国家資格の所持を条件としない。また、現在社会福祉関係の職業に従事していない主として若年層の「社会福祉専門職の志望者」の割合が比較的高いと推定される。従って、「一般通信生」に限定したメンバーの属性は、「社会福祉専門職者または社会福祉に対する関心が比較的高いと思われるが必ずしも社会福祉専門職者ではない一般市民層」として記述するのが適当である。
(注2)『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年 p.144.
(注3) 上記番組の最後に、患者の妻が読み取った患者の言葉「声は奇跡を起こします」が紹介された。参考までに、以下に学生からの声を紹介する。
「伝えられない意志を最後まで読みとる。その人らしさを大切にする。会話をすることの大切さ。難病患者が生きることを選択できる社会。言葉にできないからといって、援助する側だけが生きることや感情を決めてしまってはいけない。何らかの方法でコミュニケーションをとり、本人の意志を受け止め、会話をすることが大切だと思った。また、患者と家族だけでなく、地域の人との協力も、患者の命を支えるのに必要不可欠なものだ。どんな状態になっても、その人らしく生きられるように援助することが大切だ。」
【参考文献】
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチ』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 1998.
『人間行動と社会環境』平山尚・武田丈著 ミネルヴァ書房 2000年
『新版 できなかった子(生徒)をできる子(学生)にするのが教育』
中島恒雄著 ミネルヴァ書房 2000年
『福祉グループワークの理論と実際』保田井進・硯川眞旬・黒木保博編著
『はじめて学ぶグループワーク』野村武夫著 ミネルヴァ書房 1999年
『グループワークの歴史』ケニス・リード 勁草書房 1999年
『グループワーク論』大塚達雄他編著 ミネルヴァ書房 1997年 特に第9章
平山尚「最近のソーシャルワーク事情―グループ・アプローチを中心としてー」
『ケースワークの原則(新訳版)―援助関係を形成する技法―』
F.P.バイステック著 誠信書房1996年
Catherine P.Pappell, Beulah Rothman.,Relating the Mainstream Model of Social Work with Groups to Group Psychotherapy and the Structured Group Approach,Abels,S. & Abels,P.eds.,Social Work with Groups Proceedings 1979 Symposium,Cleaveland:Advancement of Social Work with Groups,1980.
パペル・ロスマン「メインストリームを目指すソーシャル・グループワーク――その理論と実践技術」(解説・抄訳 小島蓉子)「リハビリテーション研究」(財)日本障害者リハビリテーション協会 1990.(Nr.64.) p.28-34.


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